カシミア・カシミヤ戦争
こんにちは。辞書係です。
今回紹介する引きがいのある日本語は、
「カシミア」。
「カシミア」を例に、辞書同士のバチバチした争いをご紹介します。
まずは、『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』で「カシミア」を引いてみましょう。
カシミアヤギ(インドのカシミール(Kashmir)に産するヤギ)の毛から作った織物。高級な服地の材料。カシミヤとも。
出典:『新明解国語辞典』(三省堂)
カシミヤヤギ(インドのカシミール(Kashmir)地方などに住むヤギ)の毛から作った織物。高級な服地を作るのに使う。カシミア。(まがいものも多い)
出典:『三省堂国語辞典』(三省堂)

お分かりいただけたでしょうか……?
ほとんど同じ説明見える両者の記述ですが、よく見てみると大きく違っている部分があります。『新明解国語辞典』が「カシミア」としているのに対し、『三省堂国語辞典』は「カシミヤ」と表記しているのです。なんならヤギの名前まで違っています。
お互いに、解説の補足で相手側の表記に触れているのも、自分たちこそが正しい表記であるという主張のように見えますし、『三省堂国語辞典』が最後に(まがいものも多い)とわざわざ追記しているのが、『新明解国語辞典』を指しているように思えてなりません。
戦争の行方
言葉には様々な解釈があるので、どちらが正解かすぐに断定することはできません。
それでもひとまずこの戦いを終わらせるために、仲介者として小学館が誇る最強の辞書『日本国語大辞典』様に登場していただきます。日本国語大辞典で、「カシミア(ヤ)」を引いてみると、どのような記述があるのでしょうか……。
カシミア(カシミヤ・カシメヤ) インドのカシミール地方およびチベット原産のカシミア山羊の軟毛を用いて綾織りに織った織物。ししゅうや縫取りを施して精妙な伝統的文様を表わす。のちには、カシミア山羊の毛と羊毛の混紡糸を用いても織られるようになった。
出典:『日本国語大辞典』(小学館)
『日本国語大辞典』はカシミア陣営であることが分かります。これは、『新明解国語辞典』にとって強力な援護となりそうですね。
これでカシミア軍有利かと思われましたが、
こちらもかの有名な「旺文社」が出す『旺文社国語辞典』(第十二版)はカシミヤ軍勢なのです……。
インド北西部、カシミール地方産のカシミヤヤギの毛から製した糸で織った高級毛織物。カシミア。
出典:『旺文社国語辞典』(旺文社)
日本語には「ア」なのか「ヤ」なのかややこしい言葉が多すぎる!
戦いが終わりそうにない「カシミア(ヤ)」のように、日本語には「ア」なのか「ヤ」なのか分かりづらい言葉がたくさんあります。
例えば、
・カシオペア座なのか、カシオペヤ座なのか…
・ダイアモンドなのか、ダイヤモンドなのか…

こんな風に、ややこしい言葉を【アヤこしい言葉】としてまたの機会に紹介していきます。